会長の独り言(昔話その3 MAX)

MAX ROUTINE(以下 MAX)を最初に始めたのは、私が4年生の冬であった。

MAXとは、腹筋・腕立て伏せなどの筋トレ種目を、自分が何回できるか測定する記録会である。

 当時の陸上部は、冬になると練習参加率が下がった。部員数は50名を超える大所帯だったが、参加するのは10名〜15名。練習の主体は、長距離であったり筋トレだったりと、体作りがメインだから面白くないし、目標もなくなるので仕方ないことだった。特に短距離や跳躍の選手は、こういう地道な練習を好まない。自分の素質を武器に目立ちたい性格が多い。また、そうでなければ勝てないと思う。ただ、キャプテンをやっていた私としては、何とかしたいと考えていた。
① 参加率を上げたい。参加率が上がれば「力」はつく。
② 「出てこい」と怒ってはいけない。辞めさせてはいけない。
③ やる気がでる練習を探さなくてはいけない。
当時は、東海地区大会を連覇しており、卒業する5年生は、黒田さん(M10 キャプテン)と山崎さん(M10 投てきの稼ぎ頭)の2名だけだった。3連覇は当然達成で、できれば全国大会でも「豊田」の名前を掲げて欲しいと、OBからの期待も高まっていた。
こんなプレッシャーを感じながら思い悩んでいたある日、寮で同室の田中君(E11 野球部キャプテン)が、こんなことを言った。
 「今日練習で、腹筋を誰が一番できるか競争したんだ。そうしたら、予想に反して。。。」  
 「ヘー、面白そうだね。陸上部もやってみようかな」
その時、「あっ、これだ」と思った。
 どうせ、普段の練習で腹筋や腕立て伏せをやっているのだから、これをセットにして記録会をやろう。そうすれば、自分がどれくらいできるか分かる。
 「どうして、今まで気がつかなかったんだろう」

 早速、月一回の記録会として土曜日に開催しようと考えた。ただし、この時点ではアイデアのみで、どうやれば良いかもわからなかった。これを実現するには、少なくとも3つの問題があった。
① こんな記録会を、小栗先生はOKと言うだろうか。
(何せ、愛知県の国体監督である。参加率狙いの子供だましな内容を、どうやって説得しようか)
② 部員はOKするだろうか。(サボれる冬だし、長距離ランナーにして見ればシーズンである)
③ どういうメニュー(企画)を組めば良いのだろうか。闇雲にやっては怪我をするかもしれない。
以上の中で、まず先生の部屋に行って説明した。この時、先生は何も言わなかった。「部会で皆に相談しろ」ということで終わった。
②について、これだけの為に記録会と言うわけにもいかず、以下で提案した。
1) 冬の体力作りの成果発表会として、2ヶ月に一度全員でやる。2人一組で回数をチェックする。
2) 体が忘れないように、通常の記録会も2ヶ月に一度、全員でやる。
(確か、助走付き100メートル、300又は1500メートルの選択、円盤投げ、幅跳び、高飛びの5種目だったと思う。→スポーツバッチテスト流)
 実は、これだけのことを伝えるのに、前夜 眠れずに徹夜したのを覚えている。陸上の練習方法で徹夜したのは、後にも先にも、このときが始めて!
そして、気合を入れて説明したが、部員の反応は全くと言って良いほど無し。
  「まあ、参加してみるか」程度だった。 ちょっと拍子抜けしたなあ。
③については、過去の誰もやったことが無いので、とりあえず、腹筋→腕立て→スクワットジャンプ→・・・と7種目くらいを選定した。次に、これを1つ後輩の村澤君(A12 槍投げで全国制覇  黄金時代の立役者の1人)に相談したところ、
「結果に自己採点(学校の成績と同じ、A・B・・F)をつけてはどうか」と、A4サイズの記録用紙を作って持ってきてくれた。
「これは良いアイデアだ。さすが村澤!」と感心した。

そして、心配していた当日(“何を”といえば参加率・・これが皆の気持ちだから)。40名を超える部員が集まった。ほとんど顔を見せない連中まで来てくれた。先生も目を丸くしていた、皆びっくりだった。私は、その時
 「これで、うまくいく!」と確信した。

実際にやってみると、いろんなことが分かった。
① 腕立ての“1回”をどうやって決めるか(結局、デコが地面についたら1回とした)
② 腹筋の回数に大きな差がついた。30回で終わる人もいれば、久田君(M13 投てきチーフ)などは300回やっても平気なほどの筋力を持っていた。15分経っても終わらないのでずっと待たねばならなかった。結局、小栗先生が「今回は350回で打ち止め」とした。

2時間程度の記録会だったが、今でも思い出すのは、小栗先生と野末君(E13 400mの第1人者 全国2位)が、スクワットジャンプで最後まで競い合ったこと。100回を超えて、ついに先生が根負けした。終了した後、2人とも立っていられず横になってしまった。普段見せない先生の姿に、部員は親密感を覚えた。皆楽しそうだった。皆の笑顔を見るのが、私としてはとても嬉しかった。そして、自己採点した。「次回までに何を〜やろう」という部員の会話が聞こえた。
「クラブ活動は、沢山のメンバーでやるのが良い」

ただ、私には、もう1つ狙いがあった。コツコツ練習している人を表に出して、褒めてやりたい。陸上競技は記録が全てである。100メートルでいうなら、一生懸命練習して出した12秒5よりも、大した練習もせずに素質で出した12秒0の方が、世間では値打ちがある。当然のことである。チームプレーではない。しかし、、、
 そこで、2回目からは、自己採点を前回との差でつけようとした。こうして頑張りを評価したいと思った。Aを沢山取った人には、プレゼントを先生から受け取る仕組みとした。
(このやり方は、難しい面もある。腹筋が30回から60回と2倍になった人と、もともと300回の人が310回やった結果を、どうやって優越つけるのか。など)

こうして始めた記録会だったが、毎回沢山の参加で冬季練習の1つになり、次のシーズンを迎えることができた。私にとっては参加率が上がったこと。これが何より嬉しかった。

その後、先生が学問的に研究され、名前を“MAX ROUTINE”とつけたらしい。この辺の実情は15〜20回生が詳しいと聞く。

 あれから30年経ち、犬塚君からは、もうやっていないと聞いた。「まあ、そうだろうな」
と思う。時代は変わっていくもの。

これから本格的な冬季シーズンになるが、苦しさだけではやってられない。目標を持って楽しくが一番だが、せめて“息抜く何か”を持って乗り切って欲しいと思う。