会長の ”東北震災地を訪ねて(後編)”   原発を行く 13

迷い道 4

写真は、福島県浜通り北部で行われる、馬を追う神事および祭りで、相馬野馬追(そうまのまおい)と呼ばれる国の重要無形民俗文化財である。東北地方の夏祭りのさきがけであり、昨年は7月27日から29日までの日程で開催された。総勢五百余騎。総大将、執行委員長、軍師、郷大将、侍大将、軍者、組頭、螺役長・・・などの役付騎馬が整然と駒を進めるのだ。まさに天下無比の圧巻であり、文化財的逸品が揃う「お行列」は動く文化財展として好事家に野馬追をもう一度見たいと言わせる所以である。震災後も脈々と受け継がれている相馬野馬追は、相馬住民の心意気かもしれない。


 
葛尾村から引き返して国道394号線にでると、そこは普段の町だった。津波災害・原発災害とは無縁とも言える風景である。道路もスムーズで(ナビも正常そうだったが。。)、途中にあるコンビニでアイスコーヒーを買い、来るべき時に備え?早めに用(トイレ)を済ませた。これで万全だ。既に到着予定時刻10時30分を過ぎているが、とにかくJR小高駅を目指すことにした。

 心配していた伊達の交差点も、制限なく通過できた。30分程走っただけで、行程の半分を達成した。
 “ナビに頼らずに、初めからOさんの言ったとおりに走っていれば、今頃は北側の侵入限界地点に到着していただろうに。”

 過ぎた時間は戻ってこないが、後悔した。
このまま頑張って挽回すれば、正午までにJR小高駅につけるかもしれない。そして北側限界地点も、ひょっとして行けるかもしれない。


[やがて394号線から115線に入った時、標識が見えた。
JR鹿島駅??。。。 近道だ。

ここで、また迷いが生じた。先ほど葛尾に迷いこみ懲りたばかりだが、今度は
一般車両も行き来しているし、思い切ってショートカットしてみるか。
そして、ハンドルを切った。

道幅は狭くなったが、確実に海の方向に向かっていた。途中、仮設住宅の看板があった。
“ここで時間を使ってはいけない。仮設住宅かJR小高駅か、どちらかは諦めないと。。。”

一方で、放射線被害から逃れるために住む仮設住宅とは、一体どんな雰囲気だろう。岩手と違いはあるのだろうか。そんな現実をこの目で見たかった。
“まっ、少しだけ寄ってみるか。”

名前は『小池第3住宅 南相馬市』と書いてあった。学校でも公民館の建物でもない。何もなかった場所に建てたイメージだ。5分ほど眺めていたが、特に変わりがあるとは思えない。掃除もしっかりやっているし、暗いと感じる部分は無かった。
ちょっと意外だった。

当初は、正午に仙台駅前『牛タン』で美味い昼食を食べ、宮城県の震災状況を見学する予定であったが、時は既に12時。このままでは、宮城を見学する時間が無くなってしまう。頭では理解していたが、身体は勝手に海(原発最前線の方角)を目指していた。やがて、鹿島駅から目的の小高駅方面へハンドルを切ったとき、コンビニが見えた。

“少し休もう。”


そして、お茶を飲んだところで我に返った。

“もう、いいじゃないか。原発の状況は理解できたじゃないか。迷ったお蔭で、葛尾という除染作業中の村にも行けたじゃないか。JR小高駅は、きっと昨日の富岡と同じ風景だ。それよりも震源地 宮城の見学が大切じゃないのか。。。”

こうして、“原発を行く”ことを断念した。予定に対し1時間の遅れだった。

続く


プラス1 原発事故について 5  〜朝日新聞より〜

3月23日 政府は福島県内で生産された一部の農作品について、摂取を制限する指示をだした。ホウレンソウやキャベツ・小松菜などが対象。
 東京都の金町浄水場の水道水からも、1リットルあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。(基準の2倍)
「念のため、飲ませるのは控えるように」

と発表されると、スーパーやコンビニから一斉にペットボトルが消えた。深刻な土壌汚染が明らかになったのが、原発から40キロも離れた福島県飯館村だ。
「住民の避難を検討するように」と助言した。

第1原発の近くの海では31日、規準の4,385倍に当たる高濃度の放射性ヨウ素が検出された。東京電力は4月4日、ほとんど事前の説明もしないまま、汚染水を海へと放出した。
事故の大きさは、史上最悪のチェルノブイリ原発に匹敵し、国際評価基準尺度で「深刻な事故」にあたるレベル7となった。