会長の”質問魔”と呼ばれて(その4後半 力学)

(力学の講義)K先生という東京大学を退官されてきた方で、その頭脳の明晰さに驚いた。授業中、何も見ずに講義し黒板に書いてく。よくまあ、こんなにすらすらと物理現象と方程式が語れるものかと感服した。本も沢山書かれており、日本物理学会、いや世界の物理学を背負って立っている人の1人らしい。恐れ多い先生なのだが、無頓着な私はぬけぬけと部屋に行って質問したものだ。ある時先生が“東大物理学科の学生の50%は天才肌であるが、残りは受験勉強テクニックで入学できただけ。どちらなのかは話せば分かる。前者は「物理学の貢献」に寄与する人材だが、後者はせいぜい理科の先生か企業に入り普通の人で終わる。残念だが、千葉大学は10人に2名くらいが天才肌かな?”と言ったことを記憶している。

ある時、今流行のテレビ番組(クイズ系)で取り上げられることの多い「サイクロイド(最速降下曲線)」の証明をしてくれた。無知だった私は驚きで一杯だった。
”高さの異なる点AからBへ最も早く到着する曲線がサイクロイドである。これは、2点間の長さが円周に等しい円を一回転する軌跡である。一見、直線が最速と思えるが、ラグランジュの運動方程式を解くことで導かれる。”


(力学演習)先生が毎回黒板に書く問題を早いもの勝ちで解いていき、その出来と参加率が単位となる。演習が続いていくに従って、「賢い人間」と凡人には歴然と差がでてくる。「こういう問題が解けたらカッコイイ」という問題を、賢い人間がさらっと解いていく。それも、沢山の方程式を並べるのではなく、本質を見据えて式の量は少ない。黒板に書き出した瞬間に「賢いなあ」と声がでる。書いている人間も揚々としている。先ほどのK先生が言っていたように10人に2名だ。

(30年前のノート:何度も処分しようと思ったが、思い出も捨てるのが嫌で今も残してある。)

 
 ある時、私の得意な分野である電気回路論の問題が演習の1つとなった。RLCの過渡現象で微分方程式を解くものだ。複雑で根気のいる問題だった。満を期して教室3面ある黒板を全て使い書きなぐっていった。この日は、私の説明だけで授業が終わってしまった。この時から、皆の目は「工学部の訳の分からない変人」から「賢い人間」に変わった。
→ そりゃもう、天下を取った気分でしたよ!

 勉強して分かったことは、力学は2つのアプローチがあるということ。古典力学ニュートン)と解析力学ラグランジュ)である。古典力学で難しいのは、「コマはなぜ回るか」という剛体問題だった。方程式を作って先生に見せると「こんな式ではコマは回らない」と指導を受けた。凡人ならば、「コマは回っているんだ。ごちゃごちゃ言うな!」となるが。。。一方の解析力学では「ハミルトンの原理」を出発点としている。
 力はエネルギー(運動ポテンシャル)を最小にする方向に働く。
∫(δT−δU)dt=0    教科書P260
この事実に出会った時は感動して鳥肌が立った。大学の図書館で勉強しているときだった。まるで世の中の全てが理解できたような錯覚を得た。この年齢になると、この事実が物理現象に留まらず人間社会にも当てはまると思う。例えば人間集団において、変な(嫌でもよいが)奴がいるとストレスやイライラが溜まる(エネルギー)。そして排除しようと行動を起こしたくなる(力が働く)。力(行動)はどのように働くか。それはストレス・イライラを最小限にする方向である。
物理現象は自然現象である。自然には人間も含まれる。力学は素晴らしいと思う。